恋愛小説『忘れたくない恋をした』22

★忘れたくない恋をした★22

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雄輔の恋(後編) ①

終電が終わったばかりの駅は、タクシー待ちの人であふれかえっていた。少しの間、隣の駅まで歩いてみるか悩んだが、冒険するよりもその場で待つ方が賢明に思え、そうすることに決めた。真夏の夜は、立ち止まっていても、全然涼しくならなかった。

その場で40分近く待って、ようやく自分の番になった。ケータイの電池は、飲み会の間に切れていた。手持ち無沙汰の長い待ち時間を、俺は夏海ではなく、北川のことを考えるのに費やしていた。タクシーに乗り込んで家の住所を伝えると、俺は目を閉じた。タクシーの料金メーターを気にしなくなるなんて、社会人になってからだ。家に着くと、充電が切れたケータイのことも忘れて、俺はまっすぐにベッドに向かった。

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暑さで、目が覚めた。いつもセットしているタイマーを切らずに冷房をつけて寝たらしく、冷房が切れたあと気温が上がったところで睡眠が途切れたようだ。それでも、時計を見ると既に12時をまわっていた。習慣で、耳を澄ます。一紀は、家にいないようだ。手を伸ばして、クーラーのリモコンを探った。電源を入れて、しばらく転がったままでいた。

「そろそろ動くか」
部屋の空気が再び冷えてきて、体の汗がひいてきたので立ち上がる。ようやく、昨日の服を脱いだ。ジーパンを脱ぎ捨てたところで、床にぶつかった音を聞いてケータイの存在を思い出し、充電器に差し込んだ。そのままシャワーを浴びて、下着にタオル1枚で、やっとケータイに電源を入れた。頭を拭きながら、髪から水がしたたる画面を見つめる。短く待ち受けが映ったあと、すぐにメールの受信画面に変わった。12件。思いがけない数字に、慌てて受信BOXを開く。

「何度も連絡しちゃってごめんね。いきなりいなくなってたから、驚いちゃったよ。おやすみなさい」

最新のメールは、2時すぎ。送り主は、水谷夏海。

 

 

「はい」
お昼から何度かかけて、夕方近く4回目の電話でやっと声が聞けた。
「あ…起きた?」
3回目までの出ない電話に慣れていたから、いざつながると、とたんに緊張してしまった。われながら、情けない声だった。

「うん、今やっと起きたとこ。ごめんね、電話何度かくれたのかな?」

寝起きの覇気のない声。聞き慣れない感触の声に、生活が滲んで聞こえて、照れてしまった。

「いや、俺こそごめん。昨日、帰ってすぐ寝ちゃって。お昼に起きて、やっとケータイ見たからさ」
「ちょっと考えれば分かるのに、帰った時間が時間だったから心配で、何度か連絡しちゃっただけなの。ちゃんと帰れたんなら、よかったよ」
「うん」

会話が、途切れる。もう電話をかけた理由も述べたし、相手にも伝わったし、夏海からの電話とメールの意味も受け取った。「じゃあ、また」と言ってしまえばそれまでだったが、俺は電話を切りたくないと思っていた。

無言のまま、時間が過ぎる。そして、夏海から終わりを切り出されたとき、寂しい気持ちになった。

「じゃあ、私起きて、お風呂入ったりしてくるね。また、連絡する」
「うん、わかった。じゃあ」

前例がある。夏海の「また」は、あてにならなかった。切りたくなくても、今の俺にはどうすることもできなかった。大人しく電話を切って、しばらくケータイをぼんやりと眺めたあと、テーブルに置いて特に意味もなくテレビをつけた。日曜の夕方、面白くもない番組を、ぼんやりとチャンネルサーフィン。

だからこそ、期待していなかった相手からのメールを見たとたん、俺は即効でテレビを消して、出かける準備を始めた。

「今、お風呂出ました。よかったら、軽く夕飯でも食べに行かない?」

夏海は、やっぱり俺にとって小悪魔だった。

 

 

日曜の夕方、普段なら次の日の仕事を思い出して憂鬱になる時間帯に、俺はうきうきと家を出た。また、明日も会社に行くために通る渋谷の街に出て、曜日や時間に関係なく人だらけの渋谷駅前で、夏海を待った。しばらくしてやってきた夏海は、Tシャツにロングスカートという、まさにOLの休日スタイルだった。ラフな恰好なのにさわやかで、この子に対して特別な感情を持つのはやめようと決めた昨日の夜の決意は、この時さっさとどこかに消え去っていたように思う。

「お待たせ、どこ行こっか」と笑う夏海の顔を見て、振り回されているという表現が一番的確な自分の現状に苦笑しつつ、とりあえずはその思いを取っ払って、お店決めに集中することにした。休日とは言っても、少し早い時間帯ということもあって、お店に入るのにはそれほど苦労しなかった。手ごろな居酒屋に入り、最初の1杯目を頼んだところで、ようやく落ち着いて話ができる体制になった。

「昨日、結局何時まで飲んでたの?」
「最後の子たちは、朝までカラオケのあと、ご飯食べに行くって言ってたよ。女の子たちは、カラオケ終わった時点で、始発でみんな帰ったけど」
「オールして朝ごはんって、学生とやってることおんなじだな」
「ね。週末にしかできなくなったのと、体が元に戻るのに時間がかかるくらいで」
「確かに。まぁ、言っても、まだ半年もたってないんだもんなぁ」

長いように感じていた学生生活が終わって、まだ半年もたってない。半年もたってない間に、俺は夏海と街で出会い、クラス会で再会し、こうして一緒に食事をしている。世界は広いし、狭い。人生は、何があるか分からない。

しばらく話している間に、俺は何度か昨日の話を思い出し、こうしている俺たちを北川が知ったらどう思うのか、夏海はどんな気持ちで俺と向かい合っているのか、を考えた。そして自分が、この先自分たち2人がいい関係に変わっていけるのではと、期待していることにもちゃんと気がついていた。それでも、その日は、約束どおり軽い夕飯を済ますと、2人は渋谷で別れた。

別れたあと、わりとすぐに夏海からメールがきた。

「今日は、ありがとう。日曜日に、ばたばたとごめんね」

散々考えて、こう返信した。

「全然。じゃあ、次はもっと時間がある時に」

押すでもなく、引くでもなく。ずるい対応だったかもしれないけど、うまく今後につなげるように期待をこめた。

願いは叶った。なんとなくメールが続き、寝る直前では、次の週末に会う約束がたっていた。まだ日曜日の夜で、起きても月曜日の朝にしかならないことが、じれったくてたまらなかった。まだ月曜日、まだ火曜日。次の1週間は、ずっと「まだ」を繰り返し唱えていた。それでも、頻繁ではないが、夏海とのメールがずっと続いていたことで、週末にはまたこの子と会えるということを思い続けられたことが救いだった。

長い長い1週間の終わり、金曜日は華金を飲みに誘う同期を断って、ダッシュで家に帰った。遠足前の夜に、早く寝れば早く朝になると信じている子どものようだった。しかし、帰ったら帰ったでやることはなく、とりあえずテレビで金曜ロードショーをつけた。今朝から、夏海とのメールの話題が、週末の約束のことになっていた。

「明日、どうする?」

夜11時をすぎた時点で、ようやく待ち合わせ時間が決まった。14時に渋谷。おやすみ、とメールが切れた。

 

 

そうして、さすがに毎週とまではいかなかったが、週末に夏海と会うことが格段に増えた。会う度に、カフェに行ってひたすら話をして、時には映画を見たり、時には互いの用事に付き合ったりして、夜ご飯を食べて解散する。代わり映えのないデートプランだったが、距離を縮めていく段階の2人には、これがちょうどよかった。

2人で過ごす週末は楽しかったが、特に俺にとっては、夏海の話を聞いている時間が一番だった。カフェで、止まらない夏海の話を聞くのが、心地よくてたまらなかった。耳が入ってくる夏海の声を、本能で受け止めているようだった。「覚えてる?」から始まる、大学時代の思い出話は、自分たちのことではないようで、何度聞いても新鮮だった。

自分の気持ちには、気がついていた。うまくいくんじゃないかという気持ちと、いったとしても北川と同じ道をたどるだけかもしれないという気持ちと、そもそも俺の気持ちに応える気はないかもしれないという思いが交差した。それでも、どこかで大丈夫だろうという自信が、多少なりともあったことは否めない。

関連:忘れたくない恋をした23

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