恋愛小説『忘れたくない恋をした』2

一つが満たされると、二つ目を求める。
少し幸せになると、もっともっとと欲張りになる。
今を生きていると過去の想いを忘れてしまう。

かつての自分に感謝して、これからを生きていく恋愛小説です。

関連:恋愛小説『忘れたくない恋をした』1

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恋愛小説『忘れたくない恋をした』2

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「だからこそ、いい。」 美優の初恋、小学校1年生

昔から、ワリと気が強い女の子だった。

それは、ちっちゃな頃から自覚がある。

幼稚園までの記憶はあんまりないけど、好きな男の子を意識したことは全然なかったと思う。

「好き」という言葉を、異性の男の子に使う時の特別な意味なんて知らなかった。

たとえば、私にとってのバレンタインデーは、「好きな男の子にチョコをあげる日」ではなく、単純に「男の子の友達にチョコをあげる日」だったし、加えるならば、「ホワイトデーにお礼をもらうためにチョコをあげる日」だったのだ。

そして私は、そのバレンタインデーの定義について、別の女の子と議論を交わしたことがあった。

もちろん負けん気の強さから、相手の女の子を泣き負かすくらいに私の大勝利だったわけだけど、後に私は、間違った自論で友達に無駄な涙を流させたことを知って、反省することになる。

反省するときでさえ、「好き」の意味を知識として知っただけで、その感情を身を持って理解したわけではなかった。

それくらい、幼い私は、恋愛という繊細な感情に疎かった。

 

まぁともかくそんな調子で、6歳の私は、幼稚園を無事に卒園し、自宅近くの地元の公立小学校に入学した。

小学校は、私にとってなかなか楽しいところだった。

何か新しいことを吸収していく感覚が、気持ちよくてしかたがなかったから。

そして、その新しいことを習得していく作業は、運のいいことに、私にとって難しいことではなかった。

まさにプラスの循環。

私は自然と、先生や周りの友達に「優秀な子」と呼ばれる存在になっていった。

失礼。周りの6歳の友達が、「優秀」なんて言葉を使うわけないね。

言っていたのは、多分、6歳の友達の親たちでした。

 

そう、6歳の子どもたちは「優秀」なんて言葉を使わない。

でも言葉で表現するのではなく、クラスの中で目立つ存在として扱われることで、私にはそれが伝わった。

もともと私は、おとなしくて地味な性格には生まれてこなかったから、勉強や運動がそこそこできて、それなりに楽しく明るい子なら、男の子から人気が出るのも当然のことだったのかもしれない。

あの頃はモテました、とは言ってないよ。

だって、当時はそんな表現をまだ知らないから。

これは、20年くらい後の私が、昔の自分を振り返って、第3者目線で冷静に判断して話していること。

 

勉強と運動がそこそこできて、明るくて楽しい子に人気が出る。

それは、男女問わずに起こる現象で、仮に私が女の子の1位なら、男の子にも1位がいた。

1位だったかどうかなんて、もちろんわからないけどね。

彼は、高野くんという名前で、みんなから「たかちゃん」と呼ばれてた。

小学生って、いたってシンプルにあだ名をつけるよね。

 

私とたかちゃんが隣同士の席になったのは、入学して3回目くらいの席替えだったと思う。

勉強も運動もできて、明るくて元気で楽しい男の子との隣同士小学生ライフは、私をますます学校好きにさせた。

そんな調子で、私とたかちゃんが仲良くなるのに、それ以上の要素は必要なかった。

私がいちばん仲良くしていた女の子と、たかちゃんがいちばん仲良くしていた男の子と、4人でよく遊ぶようになったのも自然の流れで、そうやって簡単に時間は過ぎていった。

本当に、簡単に。

あっという間に。

だって、ほら、まだこんなに思い出を振り返ることができるのに、あれから20年も経っているなんて、嘘みたい。

 

世の中の小学校教師に言いたい。

小学校は、人間の人格形成にとてつもなく影響力のでかい場所なんだって。

きっと、彼らはそのことをそれなりに自覚して、その職業に就いたと思う。

自分が昔に感じた記憶を、体に残っている経験を、思い出しながら自分の生徒と向き合っているんだろう。

でも、その記憶や経験は本当にわずかで、自分の人格形成に大きく関わった事柄だけを取り上げて残している。

 

その証拠に、私はいつから人を恋愛的な意味で好きになるということを知ったのか覚えていない。

気が付いたら、私の初恋の相手はたかちゃんだった。

だけど、たかちゃん以外の男の子と仲良くなるタイミングがあると、その子のことを一時的に好きになったりしてきた。

一時的にっていうのは、例えば遠足で1日手をつないで行動を共にした子だったり、思いがけず夜に見た夢に出てきた子だったり、ね。

その過程は私の人格形成にそれほど重要なことではなかったから、詳細は忘れて概要だけが私の記憶と経験に刻まれた。

 

さきほど述べたたかちゃんの性格について、もうひとつ言っておかなければならないことがある。

彼は、とてもお調子者だった。

これも、小学生の間で人気の出る男の子の要素のひとつだと、私は思うわけで。

ね、思うでしょ?

小学校の教師をやっている方々も。

 

ある日、たかちゃんは算数の授業中に私に言った。

それは、小学生の初めての夏休みが終わって、まもなく次の席替えになるという、たかちゃんとの隣同士ライフの終わりの直前だったように思う。

大げさに聞こえるかもしれないけど、小学生にとっての席替えって、一大イベントじゃなかった?

席が離れて、一緒に行動する班がバラバラになるというのは、当時の私たちにとっては別れに他ならなかった。

 

もともと授業中に静かにしていることが得意じゃないタイプの私たちは、先生から注意をされずに話をする技を身につけていた。

「美優ちゃん、好きな人いる?」

それは、あまりにも突然で、何の前置きもない話の展開だった。

「好きな人?」

「そう、好きな人」

 

聞き返したのは、好きな人って言葉の意味を知らなかったからじゃない。

好きな人に、好きな人いる?って聞かれて、聞き返す以外にすんなり応える恋愛能力を、そのときの私はまだ身につけていなかっただけ。

 

「えー、たかちゃんは、好きな人、いるの?」

算数の問題を解く頭の回転スピード×3倍くらいの勢いで、心臓が動くのを感じながら私はそう言った。

もちろん、その表現も今の私だからこそできるもので、誕生日を迎えて7歳になったばかりの私なら、そのときの算数知識で、ちょっとの時間の間に、1よりも10よりも20よりもいっぱい心臓が動いてる!とでも言うのだろうか。

 

「いるよ」

たかちゃんは、間を置かずに答えた。

「そうなんだ」

「なんで?」

たかちゃんの口調は変わらない。

「いや、誰なのかなぁって」

小学生は、聞きたい・聞きたくない、なんて考える前に言葉が先に出る。

 

「美優ちゃん」

小学生は、駆け引きを知らない。

「え…?」

「だから、俺がいちばん好きなのは美優ちゃん!」

 

私がそのときの彼の気持ちに返事ができたのは、それから11年たった高校3年の夏休み、うちの代の野球部が試合に負けて引退が決まった日のことだった。

 

暑い日だった。

8回の裏、相手高校の攻撃。

4回までは点をとったりとられたり、いい試合をしていたのに、5回表のエラーから相手に流れをもっていかれ、その時点で3点差がついていた。

点差的には、まだ追い上げが期待できたが、何より雰囲気が悪くなっていた。

病は気から、とはよくいったもので、こういうときの流れというのは、まさに病気につながる気だ。

 

「美優、もうダメかな。負けちゃうのかな?」

隣では、佳奈が必死に涙をこらえていた。

1人で行くのは恥ずかしいから応援付き合ってと、その日の試合に私を誘った佳奈の彼氏は、野球部のキャプテンだった。

「佳奈、まだみんな頑張ってるところなんだから。そういうこと言わないの」

口ではそういうけど、野球が強いと特に有名でもない公立高校が、私立高校に勝つことが簡単ではないことくらい私も分かっていた。

簡単ではないどころか、はっきり言って難しい。

 

1アウト、1塁。

打席に、次の打者が入る。

もう名前は思い出せないけど、うちの高校のピッチャーが気合いを入れ直すためか、ユニフォームの袖を直していた。

さすがに腕、真っ黒だなぁと思っていたら、相手高校の打者の腕が、球児にしては白いことがふっと気になった。白くて、すらっとした、球児に似合わないきれいな腕。

 

1球目から、彼はためらいもなくバットを振った。

ボールの行方を最後まで確認する必要もないくらい、素晴らしいヒットだった。

「あぁ…」

小さく肩をすくませる佳奈の声を聞きながら、何気ない意識で私は1塁に走る彼を見ていた。

「あれ?」

あの走り方、どこかで見たことがある気がする。

それにあの白い腕、なんだろう。

懐かしい。

 

「アウトとって、早く攻撃終わらせて。見ていられない!」

 

佳奈の思いは、届かなかった。

それから2点を追加され、更に、9回表はあっさりと終わった。

そして、そのあっさりとした攻撃の終了とともに、我が高校第45期野球部の引退が決定した。

 

球場を出て、泣きじゃくる佳奈が落ち着くのを隣で立って待っていると、相手高校の応援をしていたらしき子たちがぞろぞろと出口に集まってきた。

興奮のせいで声が大きい。

華やかな空気に何気なく目を奪われていると、その中の1人と目があった。

「綾子?」

「美優!」

 

小学校3年が始まる前に、私はたかちゃんたちと出会った街から、隣の市の小学校に転校していた。

綾子は、転校した先の小学校の友達だった。

「そっか、綾子は○○高校だったね。なんでいるの、って思っちゃった!」

「美優こそ、××高校だったねー、すっかり忘れてた!うちらの高校同士が引退かけて戦っていたとはね」

佳奈が一瞬顔を上げて、ぺこっとおじぎをした。

その表情を見た綾香は、佳奈の立場をなんとなく理解したようで、私たちは試合結果について触れることはしなかった。

 

「ね、驚き。綾子、野球部に彼氏でもいるの?」

「いないよぉ。あたしは、野球部に彼氏がいる友達についてきただけー」

「何それ、私とおんなじ!」

2人でくすっと笑ったあと、色の白い男の子のことが思い出された。

 

「ねぇ、綾子の友達の彼氏って、色が白い子だったりする?」

「白い子?いやー、元は白いのかもしれないけど、野球やってるんだから今は真っ黒だよ。1番打ってた田中くんだけど、知り合い?」

「いや、知らないや。ただ、なんか、そっちの高校で覚えてたのが白い子だけだったから。3番だったかなぁ」

「3番?んー、誰だろう。1番・田中、2番・市川、3番…あぁ、高野か。確かに、ちょっと白いね」

「え、高野くん!もしかして、高野浩平くん?」

「え?高野と知り合い?」

 

あの走り方。

あの白い腕。

クラス替えもなく2年生に上がった頃、小学校の野球チームに入ったばかりのたかちゃんたちに、よく練習に付き合わされていた。

腕をいくら振ってもボールを遠くへ飛ばすことができなかった私たちは、たかちゃんたちのためにボールをころがして、捕球の練習を手伝っていたのだ。

そこで、よく彼の走る後姿を見ていた。

1歩目の踏み出しが見た目に似合わずやたらと力強く、上半身のブレが少ない彼の独特の走り方。

そして、彼は色が白かった。

髪の毛の色も真っ黒ではなく、陽に当たると茶色く透けて見えるくらい、色素の薄い男の子だった。

いま考えると、その中性的な顔立ちも人の目を惹く子だった。

 

「たかちゃん、転校前の学校で一緒だった。私の、初恋の人」

私の口から、考える間もなくすらすらと言葉が出た。

佳奈がまた顔を上げた。

もう泣いてない。

驚いた顔で、私を見る。

なんだ、落ち込みながらもしっかり話聞いてたんじゃん。

驚いてるみたいだけど、私だって、なんでそんなこと言っちゃったのか、自分でもびっくりしてるんだからね。

 

「えぇ!高野が美優の初恋の人?世の中、狭すぎだね。ちょっと笑える」と、にやける綾子。

「あ、たかちゃんには言わないでよ?本人に、そんなこと伝えたことないし、私のこと、もう覚えてないかもしれないし。恥ずかしいから」

「分かった、分かった。言わないよ。その代わり、また今度詳しく聞かせてよ!受験勉強の合間に遊ぼう。連絡するから」

「うん、分かった。じゃあ、また」

 

たかちゃんに告白されたことを黙っていたのは、両思いだった初恋話を誰かに教えたくなかったから。

黙っていたことで嘘をついてしまう形になってしまったけど、実は理由がもうひとつ。

 

でも、嘘をついたのは私だけじゃなかった。

「美優、高野も初恋の相手美優だったらしいよ!ごめんね、言っちゃった(笑)」

これが、綾子から1時間後にきたメール。

 

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「で?で、そのあとどうなったの!?」

気が付くとあたしは、テーブルの真ん中くらいまで体を乗り出して美優の話を聞いていた。

「どうもなってないよ。何かあったら、夏海だって知ってるはずでしょ?」

美優が、あたしの伸ばした腕を押し戻しながら冷静に答える。

 

「何もなし?なんで!?両思いだったって分かったのに、進展なし?」

理解できない。

あたしだったら、そんな運命の再会、簡単に見逃せないのに。

モテる子って、こうなのだろうか。

 

「何言ってんの。だからこそ、いい初恋話なんじゃん!」

 

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「…いちばん、って?」

「いちばん好きなのは美優ちゃん!2番目はゆかちゃん!でねー、3番目はみなこちゃん!」

 

お調子者だった、たかちゃん。

私はたかちゃんがいちばん好きで、2番目はたかちゃんの親友のひろくんで、3番目は…選ぶなら丸井くんかなぁ。

 

この部分だけは、夏海にも教えない、ずーっと私だけの秘密!

関連:恋愛小説『忘れたくない恋をした』3

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