恋愛小説『忘れたくない恋をした』24
★忘れたくない恋をした★24
雄輔の恋(後編) ③
俺が打たれ弱かったのか、夏海に対して持っていた感情がまだそこまで深くなかったのか、理由ははっきりとはしないけれど、とにかく俺が何かしらのダメージを受けたことに間違いはなかった。
ただ、その場で帰ったにしろ、後からもらったメールを返すこともしなかったことを多少後悔していた。自分の、夏海に対する気持ちがどの程度であったであれ、夏海が申し訳ない気持ちで落ち込んでいることは明らかだった。その気持ちを「大丈夫だよ」と、和らげてやることくらいできたはずなのに、その日中にメールを返しそびれたことで、ずるずるとタイミングを逃し、結局気にはなったまま1ヶ月も放置しまったことに関しては、自分で自分を嫌いになりかけた。
そして、そんなときに、俺は23歳の誕生日を迎えようとしていた。誕生日当日は、土曜日だった。会社が終わった金曜日の夜、仲のいい同期何人かが飲みに誘ってくれた。男女合わせて5人、いつもの居酒屋で、軽く誕生日をお祝いしてもらった。女性陣2人は終電で帰ったが、残りの男2人は、俺の誕生日をカウントダウンするために、そのままオールすることになった。
「誕生日になる瞬間に、同期と男3人でいるってヤバイなお前」
「祝ってくれる友達がいるっていうのは、いいことだよ」
「まぁ、そりゃそうだ。ありがたく思え」
そんなやりとりをしている最中だった。必然の流れといえば、必然の流れだ。
「最近、そういう話ないの?」
「そういう話?」
「いい子、いないの?」
「いないよ」
無駄に即答した。余計、怪しかったと思う。
「でもお前、最近週末遊びに行こうって誘っても、来ること少なくなったよな?」
「マジ?雄輔、なんかあんだろ」
「ないって。やめろよ、誕生日に。否定して、余計虚しくなるだろ」
「あ、じゃあさ、12時からテーブルの上にケータイ置いといて、誕生日おめでとうメールが女の子からくるかどうか俺らで見守ろうぜ」
「いいね。そしたら、大体脈分かるし。もし、きたら、その中からこれから雄輔が頑張っていく子を決めるって感じで!」
「勝手に決めんなって。てか、来ねーし」
「ケータイ出せよ」
「だから、やらないし。来ないし」
「来ないなら、とりあえずケータイおいといたっていいじゃん。出しとくだけ、出しとけよ」
「本当に誰もくれなかったら、俺らがちゃんとメール送ってやるから!」
「そんなむなしいこと、わざわざ自分からのって、やるわけないだろ」
言っている間に、0時になっていたらしい。0時2分、メール着信。サブ画面に「水谷 夏海」と表示された。
「ありがとうって電話しろよ!」と騒ぐ同期をなんとか酒で鎮め、結局その日はオールの予定が、タクシーで帰宅になった。同期に詮索されるのがいやだったのと、俺が夏海へのメールを落ち着いた場所で送りたかったからだった。
驚きすぎてケータイを持ったまま固まっていると、すかさず同期に取り上げられた。そして、そのスピードでは防ぎ切れず、自分が見るより前に同期にメールを読み上げられた。
「お誕生日、今日だよね?おめでとう」
メールは、とてもシンプルだった。危うく、勝手にメールを返信されるところだった。ここでいたずら電話やいたずらメールをされたんじゃ、たまったもんじゃない。
同じ方向の1人とタクシーを途中まで相乗りしながら、もう1度メールを読んだ。どんな風に考えて、このメールを送ってきたのだろう。俺が連絡を返していない状態だったんだ。きっと、送るのもためらっただろうな。というより、なんで誕生日を知っていたんだろう。
「なぁ」
「え?」
「その子と、微妙なの?」
「なんで?何?微妙って」
「んー、だからさ。いい感じなんだけど、なんか問題があって今は付き合えない、とか。三角関係、とか。最近連絡とってなくて、久しぶりにきたー、とか。そんな感じ」
言われたことがなかなかあてはまっていて、反応に困った。一瞬黙っただけなのに、そのまま続けられた。
「だったら、なるはやで返信した方がいいんじゃね?」
「え?」
「ちょっと気まずいような気持ちがある相手への連絡って、間があくと、タイミング逃すじゃん。それに、相手も同じように思ってんなら、もしかしてすごい待ってる間苦しいかもしれないし」
ちゃかされたあとだけに、まともな意見を正面からもらって、やや返事にためらったが、なんとなく素直に言ってみる気になった。
「あのさ、お前今までに、元カレの名前で呼ばれちゃったこととかある?」
「え、彼女に?」
「うん、まぁ。彼女とか、女友達とか」
「ないね。っていうかさ、あったとしてもさすがに彼女だけっしょ。ただの女友達に元カレの名前で呼ばれちゃう意味がわかんないんだけど」
「なんで?あるかもしれないじゃん」
「普通さ、人の名前を間違えるときって、何かその別の人に関連したこと考えてたりとか、そういう時じゃね?ただの女友達が、ただの男友達に向かって、間違って元カレの名前で呼んだりするってことは、前にその元カレとそういうシチュエーションになったことを思い出してそうなったか、もしくは、その男のことを新しい彼氏にしてもいいって、候補に思ってるから頭がそう働いて、口が間違えて言っちゃった、みたいなパターンしかなくない?いずれにしても、それなりに男として意識してなきゃならないよね」
「えっ、そうかな」
いいながら、1ヶ月前を思い出していた。こいつの言うことの筋は通っている気がする。それならば、夏海は1ヶ月前、あの部屋で、俺のことを意識してくれていたのか。
「いや、わかんないけどね。言っただけ。で、その子に元カレの名前で呼ばれちゃったの?で、それから連絡とってないとか、そんな感じ?」
「いや、違うけどさ」
「絶対違くないだろ。分かりやすいな、お前。違ったら、このタイミングでそんな話出してこないっしょ。とにかく、早く連絡返した方がいいぞ。時間があくと、なるようになるもんも、ならなくなるときがあるし。お前が、この先その子とどうもならなくていいんなら、逆に返さない方がいいけど」
普段からマーケティングに携わっていると、こんなに気持ちの流れに敏感になれるんだろうか。だったら、俺もマーケに異動したいくらいだ。
「相談なら、聞いてやるから。なんなら、代わりにメール打ってやるから」
「いいよ。なんで、そこまでしてもらわなくちゃなんないんだ」そう言って、俺は笑った。なんだか、普通に連絡がとれる自信がついたみたいだった。
関連:忘れたくない恋をした25
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