恋愛小説『忘れたくない恋をした』25

★忘れたくない恋をした★25

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雄輔の恋(後編) ④

誕生日だから、と先にタクシーを下ろしてもらった。5分ほど歩いて、マンションに着くと、とりあえずリビングのソファに座ってケータイを開いた。1時半をまわっていた。もう寝てるかもしれない、と思ったが、もしもう寝てるなら、尚更今送らなくてはと思った。このまま朝になって、夏海が目を覚ましたときにメールがなかったら、また気を落とさせてしまうかもしれない。

「うん、誕生日だよ。ありがとう」

考えた結果の文面は、これだった。5分ほど待ってみたが、携帯は鳴らず、とりあえず寝る準備をしようと、スーツを脱いでお風呂に入って出てくると、返信が届いていた。

「良かった」

これは、誕生日があたっていたことが良かったのか。メールが返ってきたことが良かったのか。聞きたいことがたくさんあるような気がした。とにかく、自分で塞いでいた連絡を、また夏海の方から切り出してくれたことに対して、俺は反応すべきだと深く思った。好きとか嫌いなんて感情は、あとで整理すればいい。

「メール、返してなくてごめん。なんて返したらいいかわかんなくて。そんなんだったのに、誕生日覚えててメールくれて嬉しかった。ありがとう」
「そんな。あたしがいけないんだし。中野くんが気にすること、全然ないよ」と、返ってきた。ここで、手をさし伸ばすのは俺の義務に思えた。義務というと、上から目線のように聞こえるかもしれないけど、「俺が支えなきゃ」という気持ちの使命感だ。決して、上からものを言うつもりではない。

俺たちは、3時前まで連絡をとりあって、次の日、久しぶりに会う約束をたてた。

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お茶の時間に、やっぱりいつもどおり渋谷で待ち合わせをした。

現れた夏海は、ワンピースを着ていた。1ヶ月の間に、少しやせた気がした。「久しぶりだね」と簡単に挨拶を済ませると、少し駅から歩いたカフェに向かった。久しぶりに会って話すのには、人が少なくて落ち着いて話ができる場所が必要だった。

 

「お誕生日、おめでとう」
カフェで注文したコーヒーが席に運ばれてくると、夏海は言った。
「ありがとう。よく、知ってたね」
「だって、ほら、冬生まれだから寒いのはわりと得意って前に言ってたじゃない。そのとき、日にち聞いて覚えてたから。それに、ミクシィに誕生日ですって表示もあったし」
「そんなこともあったかも。いや、でもすごいね。ありがとう」

ミクシィのページ、開いて見たってことか。なんだか、少し恥ずかしかった。特に更新もしてないから、プロフィールも大学生のときのままだけど。

夏海の対応は、普通だった。今までと変わらず、1ヶ月前の出来事がなかったかのように、空白期間は存在しなかったかのように、普通だった。だからこそ、そのあとの展開が俺にはまったく読めなかった。

「そろそろ、出ようか」
言うと、夏海はうなずくと伝票を持って立ち上がり、レジでさっさと会計を済ますと店を出てしまった。
「俺、出すよ」
店の外で声をかけると、財布を持った手を制止し、言った。
「いいの。ごめんねと、今までのありがとうってことで」
「え?」

意味が、分からなかった。出してくれるのであれば、理由は「おめでとう」と言われるものだと思っていた。それでも、「ごめんね」はまだ理解できる。「ありがとう」は、どこからきたものなのか。

「1ヶ月、考えてたの。もう、中野くんに会わない方がいいって」
「…」
「あたし、多分おんなじことを繰り返そうとしてるなって、そう思ったの。北川くんのときとおんなじ」

土曜日夕方の、宮益坂。道の真ん中で立ち止まる俺たちの横を、人がのぼっていき、くだっていく。車の音がうるさいはずなのに、夏海の声ははっきりと俺の耳に届いて聞こえた。

「社会人にとって、土日ってすごい貴重なお休みじゃない?そのお休みを、あたしのために中野くんは使ってくれてたわけじゃない?それって、友達として心配だったから?それとも、男女の感情?」

夏海が、こんなにはっきりとものを言う子だというのを知らなかった。何も言えない子だとも思っていなかったけど、原田との付き合いを見ていたせいもあってか、こんなにもきちんと自己主張をする子だと気づいてとても驚いた。言われている内容によりも、その夏海の姿に驚かされて、一瞬理解が遅れた。

「男女、の?」
「そう。今は友達としても、今後関係が変わっていくことを期待していたりする?」

人の流れは変わらない。のぼったり、くだったり。俺たちが止まっていても、他の人の時間は止まらない。

「なんで、そんなこと聞くの?」
「もし、本当に中野くんの優しさからなら、ちゃんと断らなきゃって思ったの。ありがとう、もう大丈夫だよ。優しくしてもらっても、立ち直れるわけじゃない。自分で、乗り越えなきゃいけないから。…男女の感情からなら、ちゃんと言わなきゃいけない。あたし、まだ竜平のこと忘れられてないって。それに、竜平との恋を思い出すと、怖くて別の誰かと恋愛できるような状態じゃないって。だから、どっちにしても、もう中野くんには甘えられない」

こんな男前な質問を受けたのは、生まれて初めてだった。すぐには、ちゃんと答えられそうにもなかった。しばらく、俺は黙り込んだ。どう伝えたらいいのか分からなかった。

「帰ろうか」夏海は、俺の答えを待たずに坂を下りだした。下りながら、2人は黙ったままだった。でも俺は、帰るつもりなんてなかった。坂をくだり切る前に伝えなければいけないことがある。この無言は、伝えるべき言葉をまとめる時間だ。駅が見えてくる。もう少し。もう少しだけ、待ってほしい。

「まだ、時間は大丈夫?」
坂を下り切った信号待ちの時間に、俺は夏海に尋ねた。夏海は、しばらく俺の顔を見つめたあと、うなずいた。

「今、ずっと、歩きながら考えてたんだけど」俺は、口を開く。「というか、多分、ずっと考えてたことだったんだけど」夏海は、黙ったままだ。

「言うべきか悩んでた。言った方がいいのか、言わない方がいいのか、頭の中で自問自答しながら結局今日になっちゃったんだけど」

駅に向かう人と、駅から出てくる人は同じくらいだ。まだ、夕方。休日の渋谷の活気は、ここから第2弾が始まるだろう。交差点をわたる人の流れを見ながら、続けた。

「さっきの質問の答えなら、多分後者なんだよね。いずれは、って思う気持ちはずっとあった。でも、それを今求めちゃいけないってことも自然に思ってた。だから、言わなかった。そのことで、悩ませてたんなら、ごめん」
「あ、全然そういう意味じゃなくて。だから、謝らないで」
「うん。で、続けるけど。その気持ちを伝えても、もう俺たちは会えないのかな?」

夏海が、俺を見た。少しすると、視線を外して、次の言葉を考えているようだった。

「そうだね。もう、会わない方がいいと思う」
「なんで?」
「なんで、って。あたし、まだ竜平のこと忘れられないの。例に出すのは良くないけど、このまま中野くんと一緒にいたら、北川くんとおんなじことになるんじゃないかな。結果が分かってて、中野くんのこと傷つけたくないし。それに、そんな風に終わるなら、今こうやって終わらせたほうがいいと思う」

しっかりと、こっちを見ながら言った。もう世間から見たら、立派に失恋が成立しているんだろうけど、俺は俺でここで終わらせられない理由があった。

「北川のときも、結果が分かってて付き合ったわけじゃないよね?」
「え?」
「きっと続かないだろうって思って付き合ったの?もしかしたら、うまくいくかもしれないって思わなかった?」
「それは、そうだね。もしかしたら、って思ってたかも」
「じゃあ、それでいいじゃん」

夏海は、どれでいいのか分からない顔だった。

「それで、いいよ。俺も。どうなるかわかんなくても、とりあえずこのままでいいよ。やってみないとわからないことだらけじゃん。1秒先も予想できない未来なんだから、絶対にこうなるとか決め付けて選択肢を減らす必要ってなくない?」

黙ったまま、俺を見ていた。

「っていうのも、俺がこれで終わりにしたくないって気持ちがあるから主張してるんだけど。どうかな?」
「・・・ありがとう」

長い、沈黙のあとの言葉だった。

「ありがとう?」
「うん。でも、中野くんは、それでいいの?あたし、こんなんでいいの?」
「今はね。ほら、未来なんて分からないし。でも、水谷さんの癒しに少しでもなれるなら、その間はそれでいいよ。一緒にいることが苦しいなら、それは仕方ないけど、そうじゃないなら、一緒にいるのはどうかなって思う」
「中野くんと一緒にいると、なんか落ち着くの。すごく、穏やかな気持ちになれた。好きとか嫌いとか、そういう感情ではなかったんだけど、ただ自分をうまくコントロールできたんだ。だから、甘えてた」
「うん。ありがとう、それでいいんじゃないかな」
「いいのかな」
「いいよ。確かに、例に出すのもちょっと微妙だけど、たぶん北川もそれでいいと思ってたと思うよ。終わりが終わりだったとしても、水谷さんも北川も、自分の思いをやりきったわけじゃん。やってみなければ、終わることもわかんなかったわけじゃん。始めることができないより、終わったほうが気持ちよかったと思うよ。少なくとも、俺はちゃんとそう思えると思う」
「ありがとう」

ありがとう、とは言っても夏海の顔は晴れなかった。今日は、このタイミングで別れることは絶対にできない。そう思った。必死だった。

「夕飯、食べに行かない?」
「夕飯、かぁ…」
「ほら、さっきのが、ごめんとありがとうなら、夕飯はおめでとうってことでお願いしたいじゃん」

言うと、夏海は笑った。「あ、そうだ。誕生日だったね!」

笑顔につられて、流れをかえることができた。

「そうだよ。誕生日に、こんなこと言わせるなんてひどいじゃん」
「ごめん、本当に。誕生日って知ってたのに、なんか何も考えてなかったかも」

無邪気に笑う夏海を見て、誓った。この子の彼氏になる努力をしよう。やってみて、悪いことはないだろ。

「えー、でも夕飯はどうしよっかな。今日、お祝いしたら、あたしの誕生日もお祝いしてくれる?」
「うん、喜んで」

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類は友を呼ぶっていうけど、北川と俺がこんなことになるなんてな。タイムマシンがあったら、学生時代の俺たちに会いに行ってこっそり教えてやりたい。

未来は、きっと面白いよ、って。

関連:忘れたくない恋をした26

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