恋愛小説『忘れたくない恋をした』18
★忘れたくない恋をした★18
「友達を好きな男の子」麗菜の恋、中学3年生 ①
中学生になって、テニス部に入部した。先輩たちの可愛いスコート姿に憧れて、クラスが一緒になった小学校からの仲間と一緒に入部を決めた。
実際は、新入生の見学時に合わせてスコートを履いていただけで、普段の練習は学校制定のジャージ。優しそうに見えた先輩は、サーブの練習中、後ろを向いている私たちを的にするような人たちだった。3年生が引退するまでは、ひたすら球拾い。コートに人が多すぎて、何人かを残して、他はみんな運動場をひたすら何周も走らされた。
2週間たち、1ヶ月たち、日に日に新入生の数は減っていく。ついに、同じクラスだった友達はあたしを残してみんなやめていった。それでも部に残ったメンバーは、やがて固い絆で結ばれていく。
中学2年生になって、3年生が引退したあと、あたしは部長になった。部長なんて名ばかりで、あたしが老けて見えるキャラだったから、うまく押し付けられた形だ。あたしは部活仲間の中で、テニスはうまい方ではなかったから、仕事で部に貢献できるならいいやと引き受けた。多分、そういう私の性格を、みんな1年間で見抜いていたのだと思う。
入ってきた後輩を大事にしよう、と最初に言い出したのは副部長の芽衣だった。私たちがされた嫌なことをするんじゃなくて、してほしかったことをして、いい部活にしていこう、と。3年生がいた時は、表立ってそんなことを言えなかったから、これまでの伝統どおりの対応しかしてこなかったのに、例年より残った部員が多かったのは、影で芽衣がしっかりフォローを入れていたからだろう。
なぜ、芽衣が部長じゃないかって?テニスがうまかったから、余計な仕事は回さないように、です。
芽衣は、誰にでも優しかった。本人は、優しくしているつもりなどなかったのかもしれない。天性の明るさと朗らかさが、本人は何もしなくても、いるだけで周りまで楽しくなる、そんな感じだった。 もちろん、それを妬んでいる子たちがいくらかいたこともあたしは知っている。だけど、あたしは、最初から自分が芽衣と比べられるような存在ではないって自分で分かっていたから、素敵な友達を持った、とただただ芽衣の隣で誇らしかった。
小学校は違ったけど、帰り道は途中まで一緒だった。部活の帰り道は、何人かで帰っても最後は芽衣と2人で、話はいつも終わらず、毎日飽きずに遠回りして芽衣の家の近くまで行ってから、道を戻って帰るのが日課になった。
部活以外でも、芽衣と一緒に過ごす時間は長かった。部活がお休みの日、電車を何駅分か乗ると中学生が遊ぶのにもってこいの駅ビルがあって、用もなく出かけては、プリクラを撮ったり、マックでひたすら話し込んだりしていた。あたしは当時好きなアイドルグループがいて、芽衣が買っている雑誌に載った時には、その部分を切り取ってもらったりしていた。あたしは、オシャレに興味なんてなくて、ファッション雑誌を買ったことなんてなかったから。そんな風に、周りと何ら変わりのない、普通の中学生ライフを送っていた。
部活引退は、あっけなかった。でも、そもそもうちの中学は特にテニスが強かったわけでもなく、これまでも成績を残した年なんてなかったから、例年通り普通にちょっと感動して、引退して、なんとなく高校受験が意識されだした。
もともと塾に行っている子もたくさんいて、部活を引退して早く帰るようになると、母親が友達の親から聞いてきた情報を元に塾に行く手続きが済んでいた。1人だと勉強を頑張ったりできないあたしの性格を親は知っていて、有無を言わせない強制だった。
これから塾に通うから、一緒には帰れない。そう芽衣に告げると、「そっか、残念だね。受験勉強、お互い頑張ろうね」と言われた。私も行こうかな、と言われなかったことが悲しくて、入塾初日は、1人の帰り道を芽衣のことばかり考えながら歩いた。
だからこそ、入塾から2ヶ月。夏休みを機に、私も塾に通うことにする、と芽衣から伝えられたとき、あたしは素直に嬉しかった。
それからは、一緒に帰るのは学校から塾まで、塾から家までの2回に増えた。ますます芽衣と仲良くなっていると思っていたから、芽衣の変化には簡単に気がついた。
あれは、10月頃だったと思う。芽衣が、塾から一緒に帰るのやめにしない?と言ってきた。あたしは、なんで?と聞いた。このままじゃ受験大変かなぁと思って。自分の集中が切れるタイミングまで、塾で勉強してから帰るようにしようかなって思ったの。ほら、お互いに相手のこと気遣って勉強するのって難しいし。そう言われて、その時のあたしはすぐに納得した。あたしは、周りに人がいると集中できないタイプで、塾の授業が終わるとさっさと帰り、宿題なんかは家でやりたい人だったから。
そして、またその1週間後。あたしと芽衣は、勉強の合間に、週末映画を見に行く予定をたてていた。前日になって、塾の授業が終わると芽衣がやってきた。
「麗菜、謝らなきゃいけないことがあって…」
うつむきながら話し出した親友の姿を見て、これは何かあったなと悟った。そうして、映画をドタキャンされてから、あたしは芽衣の恋に気がついた。その相手が、冴えない塾の講師だということにも。それでもあたしは、芽衣から打ち明けてくれるまで、自分からは何も触れないことに決めていた。
話は少し前に戻ることになるのだけど、あたしが入塾したと同じ頃、隣の中学の男の子も一緒のクラスに入った。それが、吉村一紀。
同じ中学の女の子が、彼に目を奪われているのは明らかで、また隣の中学の女の子が、その後大量に入塾してきたことを見ても、彼の人気は一目瞭然だった。
最初は、ふーん。確かにかっこいいかも、程度だった。友達が彼について、きゃあきゃあ話すことを聞きながら、横目で彼を見る。やっぱり、ふーんと思う。その繰り返し。でも、いつからか、友達の話を聞きながらではないのに、1人で彼のことを見ている自分がいた。
恋に落ちるのに、すばらしいシチュエーションは必要なかった。もう、恋に落ちる準備は整っていたのだから。
まだ、芽衣が塾に入っていない頃だった。7月、休日の授業。あたしは、自宅から自転車で塾に通っていた。授業が終わって帰るとき、自転車置き場に来てみると、あたしの自転車はたくさんの自転車たちに挟まれ、押しつぶされていた。あたしたちが通う塾は、駅の目の前。塾に来る子たち以外にも、駅を利用する人たちが勝手に自転車を置いていったりするもんだから、数はあふれ、自転車の保管方法はひどいものだった。
同じ塾の子と思われる子が、何人か順番に自転車を取りにやってきた。クラスが違うこともあって、話をしたことがないのだから仕方がないのかもしれないが、あたしが1人でたくさんの自転車と格闘する姿を見ても、誰も手伝ってはくれなかった。明らかに、駅を利用するために自転車を置きに来た人も、一瞬気の毒そうな顔をしたが、気まずいのか、すぐに目をそらすと自転車を置いて、さっさといなくなってしまった。
暑すぎて、悲しくて、力も出なかった。前輪に別の自転車のペダルが、自分のペダルも別の自転車の前輪の中。それでも無理に引っ張ると、今度はなだれのように付近の自転車が倒れこんだ。
がしゃーん。壮絶な音。汗だくで自転車を確認すると、勢いで別の自転車に挟まっていたペダルは外れて、あたしの自転車はようやく自由になっていた。
今のうちだ。誰も見ていないから、倒れた自転車はそのままで帰ってしまおう。と思ったとき、自転車置き場に人が現れた。
吉村一紀だった。
瞬間、あたしは凍りつき、彼が今このタイミングでこの場所に立っているということは、自転車の倒れる音を確実に聞いていると判断した。あたしは、さっきの決断はなかったことにして、倒れた自転車を端から直し始めた。汗は、暑さと恥ずかしさと悔しさと、もう理由なんて分からないけど、ひたすら止まらず、それでもあたしは他にできることが浮かばなかった。
もくもくと自転車を直し始めたあたしを見て、彼は無言のままだった。が、すぐにあたしの作業を手伝い始めた。反対側から、倒れた自転車を立て始め、あっという間にその作業は終わった。
彼に聞こえたかどうかは、分からない。ありがとう、とあたしが言ったあと、彼は「大丈夫?」と、あたしに話しかけた。真っ赤な顔であたしがうなずくと、彼は自分の自転車をとってさっさと行ってしまった。
その日の帰り道から、あたしの頭の中では、大好きだったアイドルグループの歌の代わりに、彼の「大丈夫?」というセリフが何度も何度もリピートされていた。
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