恋愛小説『忘れたくない恋をした』4

一つが満たされると、二つ目を求める。
少し幸せになると、もっともっとと欲張りになる。
今を生きていると過去の想いを忘れてしまう。

かつての自分に感謝して、これからを生きていく恋愛小説です。

関連:恋愛小説『忘れたくない恋をした』3

SPONSORED LINK

恋愛小説『忘れたくない恋をした』4

ASG43660142

「3年越しの着地点」澤上さんの恋、大学4年生 ①

年上が、タイプだった。

年上って響きだけで、私の全てを包み込んでもらえそうな、そんな気がしていた。

思い込みっていうのは怖いもので、私は年上ということだけで男の人が気になってしまうことがよくあった。

そして、その大半の恋の炎は急激に燃え上がり、同じ勢いで、消えていった。

 

そんなことばかりを繰り返していたから、周りからは恋愛下手のレッテルが簡単に貼られた。

いま考えてみれば、下手ってまだやさしい言い方だったのかもしれない。

そもそも、学生時代の恋愛は、恋愛と呼んでいいのかどうかすらわからないものばかりだった。

そのことに関して、特に切ないと思うこともなく、いつかは本気の恋に出会えるだろうと思い続けてすごした大学4年の夏、私は奏太に出会った。

 

そのとき奏太は、既に社会人だった。

私は、本当に特に何も考えずに、周りに流されるまま大学に進学して、就職活動までにやりたいことも見つからず、みんなが受ける人気企業を受けて、一番早くに決まった企業に就職を決めた。

奏太と出会ったのは、そのすぐあとのことだった。

 

経験した方なら、きっと知っていると思う。

就職活動が終わり、長いと思っていた学生生活の終わりが、本当にすぐそこに見えてきて、これからどうしたらいいのか、社会人がどんなものなのかも分からず、ただひたすら何も考えないように、はしゃいだあの日々。

その生活の中で得るものなんてあったのか分からないけど、何かしていないと不安で、動いていない時間がもったいなくて仕方がなかった。

ふわふわと学生時代を過ごした私も、ようやくこの時期になって「何かしよう、学生が終わる」と焦ることになり、友達に誘われるまま、色んなイベントに参加し始めていた頃だった。

 

イベントというと、何かすごいことをしていそうだけど、実際はパーティーと呼ぶにふさわしい、ただの飲み会であることの方が断然に多い。

もちろん、奏太と出会ったそのイベントも、社会人になりたての若手サラリーマンと、まもなく就職の女学生がかなりを占めていた。

異業種交流会って名目だったらしいけど、だったらなぜ学生の女の子が誘われていたのか、謎だよね。

つまり、私は友達と「女学生という立場を有効に活用できる場に行っておこう」という道を選択したといえば話が早い。

今となっては、本当に恥ずかしい話なんだけど。

ともかく、そうした日々のおかげで奏太に出会った。

 

その日、楽しい話し相手が見つからなかった私と友達は早めの切り上げのために、クロークに向かっていた。

年上好きの私ですら、早く帰ろうという梨菓に黙ってついていったくらいだから、この日はよっぽど楽しめなかったんだと思う。

 

「今日、マジつまんなかったね。てか、若手っていくつまでを言うんだし。40近くなってまで彼女探しにパーティー来るとか、本当にそんな男いやだわ。そう考えるとうちのお兄ちゃん、大学の同級生とか手ごろすぎだけど、早々に結婚してくれてよかったー」

「梨菓、毒舌すぎ!いいじゃん、女の子は1000円しか払ってないんだし。他で2人でご飯食べたら、そんなもんじゃ全然すまないでしょ」

「こっちは気を使ってテンション上げて、話の相手してあげてるんだから、そんなの当然だよ。むしろ、1000円払って、ここまできて時間を費やしたことに対して、感謝してほしいくらいだね。どっちかっていうと千香子、優しすぎ」

「いや、絶対それはないな」

 

はきはきと物を言う梨菓は、女の私から見ても本当にきれいな顔立ちで、それでいて可愛いこぶることはなく、すましてるふうでもなく、男女問わずに人気者だったサークルの友達。

年上好きで、且つ見ていられないくらい恋愛偏差値の低い私を心配して、こういうイベントに誘ってくれるようになってから、特に仲良くなった。

 

「もう帰っちゃうの?」

男の人の声に、立ち止まって振り向く。

瞬時に梨菓は、よそ行きの笑顔。

この笑顔にみんなだまされるんだよね。

人形は顔が命だというけれど、人間だって絶対にそうだと、私は梨菓と仲良くなって何度も感じさせられた。

もちろん、比べられて切ない想いをしたことも何度もある。

 

「はい、なんか疲れてしまって…。私たち、大学4年とは言っても、まだとらなきゃいけない単位があって、授業も残ってますし。みなさんこそ、明日お仕事じゃないんですか?」

「もちろん会社だけど、でも1日をしっかり楽しんで、仕事もがんばりたいからね。意外と、社会人てタフになれるもんだよ」

残念ながら、絶対に梨菓のお目にかなう相手ではなかった。

「そうなんですかー。私たちも、来年はそんなふうに言える働く女性になれるといいなぁ。じゃあ、お疲れさまでした。残りの時間も楽しんでくださいね」

梨菓が、模範解答を模範笑顔で述べて立ち去ろうとする。

「えー、俺らの楽しい時間を一緒に演出してくれない?お前からも頼めよ、早瀬!」

 

早瀬、と呼ばれた彼がこちらを振り返ったとき、私の思考回路は一瞬にして停止した。

顔がタイプだった、と思われるのがなんとなくシャクで考えないようにしていたけど、あれは完全に一目ぼれだった。

同じタイミングで一瞬、梨菓も停止した。

でも、梨菓でさえ認めるきれいな顔の造りだとしても、彼女の好きなタイプは可愛い系ではない、いかつい系である。

だから、私たちのマーケットはかぶることがなく、一緒にいられたってわけ。

 

「え…先輩、人を巻き込んだらダメですよ。困っちゃってるじゃないですか、彼女たち」

いい人ぶった感じ悪いやつ、と思ってもいい。

奏太は、心のそこからこう思って、思ったことを素直に伝える人だったの。

 

「いや、あの、別に、困ってるわけじゃないです。なんか、逆に気を使っていただいてしまって申し訳ないです。じゃあ、もう少しだけお話していこうか。ね、千香子?」

フリーズしたままの私に「ね?」と笑顔で問いかける梨菓の目は、「ねぇ、この彼、千香子のタイプでしょ」と語りかけてきていた。

梨菓、さすが…。

本当にありがとう、持つべきものは友達だ。

 

その先の展開は、あまりにも単純です。

みなさんのご想像通り、梨菓の手助けを借りながら、私は「早瀬さん」と付き合って、「奏太」と呼ぶに至ります。

ちなみに報告する必要もないのかもしれないけど、パーティーで奏太と一緒にいた先輩は、梨菓に猛アプローチするも、あっけなく玉砕。

3度のアプローチののち、諦めてからの情報は、入ってきていない。

名前も忘れちゃった。

 

奏太は偶然にも、私たちの大学の先輩だった。

それはもちろん出会ったあとで知ったことだけど。

私たちには意外と共通点が多く、住んでいる家が同じ路線の3つ隣の駅にあったことで、出会い方のわりに話題に困ることは少なかった。

それでも、出会ってから2ヶ月もしてようやく3回目のデートに行って付き合うことになり、社会人って忙しいんだな。早く結婚してお仕事やめよう、と社会に出る前から思わせられるきっかけになったことも間違いない。

 

え?まだ続けてるじゃん、て?

…そうなんだよね。

 

付き合って半年、私も社会人になった。

入る前に想像していた社会人とは、多少違う生活だった。

社会人3年目になった奏太は、営業だということもあり、自分の裁量で1日の仕事量を決めることができた。

だけど私は、まだ1年目。

お仕事を教えてもらう立場上、昼間に迷惑をかけている先輩の頼みを断ることなどできない。

更には、お客様の都合で、あえて営業時間後にやらなければならない仕事も、多くはないけど、あった。

 

「奏太、ごめん。上がるつもりで片付けに入ってたんだけど、先輩に追加で頼まれ事しちゃって…。ご飯、また今度でいい?おごるから許して!!」

それだけではない。

仕事が、楽しかった。

 

あぁ、すれ違いか。

なんて早合点しないでほしい。

ベタ褒めしすぎるのもどうかと思うけど、彼は本当に理解のある彼氏だった。

友達に紹介して、うらやましがられなかったことがないくらい。

もちろん、あの梨菓も絶賛。

「分かった。じゃあ今日は先に帰ってる。あんまり無理すんなよ、体壊したら元も子もないぞ」

 

奏太に怒られたことなど、ないんじゃないだろうか。

言ってしまえば、ケンカというケンカをしたこともなかったと思う。

私がふてくされたり機嫌が悪くなっても、彼が気を使ってくれることで、正面衝突することにはならなかったのだと思う。

それどころか奏太は、1年目で社会のほとんどをまだ理解できていないにも関わらず、仕事を頑張りたいという生意気な私を、全面的にバックアップしてくれた。

資格試験が近い時は、週末に奏太の家に行くと、彼は自分の机を貸してくれた。

お昼になればご飯を作り、3時になればあたたかい紅茶が出てくる。

当の本人は、私のジャマにならないよう本を読んだりしているようだった。

仕事が疲れた、と泣きつく夜は、やけ酒に散々付き合う。

そのまま寝付いた私を自分の家まで運び、私の実家には丁寧に連絡を入れてくれていた。

 

人間は強欲だなと思う。

私はそんな奏太に甘えて、どんどんわがままになっていった。

それでも奏太は、どんな私も受け入れてくれた。

時には兄になり、父となり、男友達で親友で、彼氏だった。

私が人として成長したな、と思えるのは会社という組織の中でだけ。

奏太の前では、いつまでも子どもだった。

 

奏太の協力のおかげで先輩からは可愛がられ、後輩からは頼られ、上司からは褒められる対象となれた。

そして、ますます仕事が楽しくなった社会人3年目の夏がきた。

 

「千香子、今年の夏は久しぶりに旅行に行かない?夏休みなら合わせられるし、俺が計画立てるから」

そんな風に誘われたと思う。

合わせるとは言ってくれたものの、奏太の会社が暇になるのはお盆。

私の会社が、1年でベスト3に入るくらい忙しくなるのもお盆。

これまで夏休みを利用して、旅行に行ったことなどなかった。

私には奏太と合わせて休みをとるなんて発想もなかったし、奏太も、私がそうしないことを知っていただろうから。

 

うん、そうだね。と応えたものの、私は正直そこまで乗り気じゃなかった。

ただ、否と言わなかったのは、奏太から何かしようと強く言われることが珍しかったのと、多分毎年ささやかに行っていた2人の記念日を、今年は旅行でお祝いするつもりなんだろうなと、密かに感づいていたからだと思う。

結局、お盆明け、会社の電話がパンクするんじゃないかっていう時期に、私と奏太は旅行に出かけた。

普段から仕事を頑張っているご褒美に、と社内のみんなが私にお休みをとらせてくれたのだ。

 

行き先は、奏太の実家がある福井県のお隣、石川県。

関連:恋愛小説『忘れたくない恋をした』5

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。